慢性疼痛を克服するためにストレッチやウォーキング、筋肉トレーニング、ヨガなどを取り入れている人も多いと思います。
軽い有酸素運動や体操など適度に体を動かすことは「痛み」を治すだけでなく身体の健康にも良いのであります。
しかし、中には「痛み」はますますヒドくなるばかりで一向に良くならない人、何の効果も感じられない人がいるのも事実であります。
何の効果も感じられずに焦れば焦るほど新しいものに目が向き「誰でも簡単に効果がでる◯◯体操」「これだけで驚くほど効果がでる◯◯運動」というものを試すのであります。
実際に試すと、「誰にでも効果がある。」はずなのに効果がない。
しばらく続けてみるが、だんだん「自分の痛みは何をやっても治らない。」ということになり、逆に自分を傷つけるのであります。
では、いろいろな運動療法を試してもなかなか結果がでない場合はどうしたらいいのでしょう。
慢性の「痛み」と運動療法
ぎっくり腰(急性腰痛)になったら安静にしなさい。というのは多くのエビデンス(科学的根拠)が示す通り間違いであり迷信であります。
ぎっくり腰を早く治す秘訣は「安静にせず、日常生活を続けること。」であります。
痛くて動けないのであれば、動ける範囲で動くことです。
腰が痛ければ足首を回し、肩を回し、体を動かすのです。
意識を「痛み」に向けないことです。
動かずにジッと「痛み」を見つめ、「痛み」に捉われ、執着することが「痛み」を大きくし、回復を遅らせるのであります。
これは急性の「痛み」だけの話ではありません。
慢性の「痛み」も同じ原理であります。
絶対安静の入院患者にリハビリが必要なように「体は動かさないと動かなくなる。」のです。
肉体と運動と痛み
肉体的に見れば運動は筋肉のポンプ作用を活性化し血流を良くします。
筋肉を収縮、伸展することで血管を収縮、拡張し血液を体の隅々まで行き渡らせ細胞を活性化させます。
第二の心臓という表現は、筋肉のポンプ作用、血液の循環作用のことであります。
そういう視点から見れば、安静とは筋肉のポンプ作用を停止させることであります。
また、有酸素運動というのは全身の空気の入れ替えであります。
新しい空気を取り入れ、古い空気を吐き出すことで自然治癒力、生命が活きてくるのであります。
発汗作用も同じであります。
人間の肉体は、体を動かすことによって血液を入れ替え、息(活き)をすることによって空気を入れ替え、発汗作用によって水分を入れ替えるのであります。
食事で栄養を摂るのと同じように運動することで新しい血、気、水を摂るのです。
脳は使えば使うほど知識、知性を蓄えるのです。
内臓も消化の良いものだけ食べていたらやがて弱くなります。
筋肉や骨も負担をかければかけるほど強くなります。
本来、肉体は使えば使うだけ磨かれ鍛えられ美しく輝くのであります。
心と運動と痛み
「痛み」や動作への恐怖心は行動を制限します。
自然治癒力の邪魔をし「痛み」を慢性化させるのは不安、恐怖心であります。
行動制限がエスカレートすれば回避行動、活動障害、安静となります。
それはやがて可動域の制限となり、筋肉の拘縮となります。
運動療法の本質は、動作への恐怖心を克服すること、動作の制限という思い込みをなくすことにあります。
腰が痛い人は「腰が痛いから何もできない。」と悲観的になるのではなく、「腰以外は健康である。」という事実に目を向けるのであります。
「痛み」や動作に恐怖を感じているのであれば、痛くない範囲で動かすか、痛くないところを動かすことから始めるのです。
少しでも改善したらその事実に目を向けてください。
昨日よりも一歩でも長く歩けたら改善です。
昨日より少しでもスムーズに動けたら進歩です。
それが心と体の実績となり、自分への信頼、自信となるのです。
「動くことが楽しい」「気持ちいい」と感じ始めたら、もうそこには「痛み」に対する恐怖心も動作に対する不安もないのであります。
運動療法で失敗する場合
いくら運動しても改善しないというのは運動自体が苦痛、ストレスになっているのであります。
「痛み」を我慢して行う運動療法は苦行であり修行であります。
ここに「このつらさに耐えれば絶対治る。」という信念が働けば治るのでありますが、多くは「痛み」に対する恐怖心を大きくし、「できない自分」「治らない自分」に葛藤するのであります。
「痛み」を克服するのに苦行も修行も必要ありません。
「痛み」が教えてくれるものという記事でお伝えした膝痛の女性は7年間続けた苦行をやめたら「痛み」が癒えたのであります。
「痛み」に耐えながら運動する時、心が緊張し、体が緊張しているのです。
体が緊張していれば力を入れるたびに「痛み」が走り、体がスムーズに動かないのは当然であります。
心と体の緊張を緩めるには、ゆったりとした呼吸、ゆったりとした動きです。
ゆったりとした呼吸、ゆったりとした動きは心を落ち着かせ、体を自然な状態にします。
浅く早い呼吸、早い動きは力みになり、「痛み」になり硬い体となるのであります。
運動療法が続かない場合
慢性疼痛に運動療法が有効であることは多くの研究調査で明らかになっているのですが、どんな運動が良いという具体的なものはないのであります。
一人ひとり体力、筋力も違えば、「痛み」の程度も違うのでありますから万人に同じように効くという運動はありません。
第一、人が効くという運動を疑いながら、イヤイヤ行っても続かないのであります。
そもそも運動とはウォーキングや水泳、スクワットなど特定の肉体鍛練のことだけをいうのではなく、生活活動そのものであります。
家事、育児、仕事も運動であり、椅子に腰掛ける、トイレに行くのも運動であります。
誰でもトイレに行けばスクワットをせずには用が足せないのであります。
腰や膝が痛いからトイレに行く回数を減らしている人がスクワットを初めても続けられるはずがないのであります。
特別な運動だけが運動ではありません。
イキイキと家事をし、仕事をする日常生活こそが基礎運動であります。
日常生活を基礎運動とすれば、「時間がなくて続けられない。」「お金がかかるからできない。」ということはないのであります。
また、自分のことだけを考えている人は続かないのであります。
スポーツも観客が感動し喜ぶから選手はつらい練習に耐えられるのであり続けることができるのです。
自分が健康になることで誰かを喜ばせたい、少しでも動いて誰かの役に立ちたいという想いが継続する力となり燃料となるのであります。